ニ十数年前、当時上司だった人と初めて飲みに行った時の話だ。
 タイトルは忘れたが、ぼくがカラオケである歌をうたっていると、急に彼が、
「ぼくの歌を取ったらいかんだろう。それはぼくが先輩からもらった歌だ」と憤慨して文句を言った。
『ぼくの歌』って、初めて飲みに行った人の十八番なんて、ぼくが知っているはずがない。それにそんなに大切な歌なら、先にうたっておけばいい話で、そうすればぼくも同じ歌なんかうたわない。

 その文句で充分白けさせられたのだが、彼はさらにぼくを白けさせてくれた。文句を言ってから十分後、彼はろれつの回らない口で、
「君はこういう歌を知っとるかね。これはぼくが先輩からもらった歌だ」と言い、先ほどの歌をうたい出した。
 最初は皮肉でうたっているのかと思ったのだが、その酔い方からして、どうも記憶が飛んでいる様子だった。

 ま、それはともかく、とても『ぼくの歌』と呼べるような歌にはなってなかった。それはそれは下手くそだったのだ。
 それ以降ぼくは、彼と二人で飲みに行くことはしなかった。