吹く風

2016年06月

いつも空を見上げて生きてきたけど
来る日も来る日も雨が気になったり
カミナリを怖れたりして切りがなく
人生は苦しいものと決めつけていた。

ある曇った日に空を見上げていると
なぜか意識が浮いていくのを感じた。
意識は雲を突き抜けてのぼっていき
とうとう天空に行き着いてしまった。

以来全てが空の下の出来事になった。
おかげで雨を気にする癖はなくなり
カミナリを怖れることもなくなった。
今は人生が楽しいものと思っている。

ある時代に行われる同窓会での話。
以前見たことのある曇り空の下を
既に中年化しているぼくと彼女が
校庭内を寄らず離れず歩いていた。
左側の少し前を歩いている彼女に
ぼくは緊張も照れもなく言うのだ。
「高校の頃からずっと好きだった」

数十年続いたぼくの胸のつかえを
彼女は驚くでもなく喜ぶでもなく
軽い笑みを浮かべ受けとめていた。

今から随分先の時代の話だ。
人間から敵対視されていた
ゴキブリは身を守るために
人間が好むピンク色に体を
進化させることに成功した。
さらに彼らは秋の虫の如く
鳴くようになったのだった。

その頃我々人類はというと
長年の文明の蓄積で今より
遙かに長命になったものの
快適さ便利さのツケが回り
体毛を全て失ってしまった。
そのせいで日光に脆くなり
活動の中心が日没後という
夜行性の動物になっていた。

昔から夜行性のゴキブリと
新たな夜行性動物人類との
関係はすこぶる良くなって
ピンク色の鳴くゴキブリは
癒やし系携帯ペットとして
重宝がられるようになった。

一方で進化しなかった生物、
蝿や蚊は時代が変わっても
害虫視されているのだった。
殺虫剤の容器の裏側にある
効能書きにその名を連ねて
相変わらず瞬殺されている。

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