吹く風

2010年12月

(1)大晦日
99パ-セントを超える
時間が経過いたしました。
1パーセント未満の時間の中で
出会うだろう幾人かの人に
「お世話になりました」と言えば
確実に過去は幕を閉じます。

99パーセントを超える
生活が通過いたしました。
1パーセント未満の生活の中で
行うだろう何度かの会話の終わりに
「よいお年を」と付け加えれば
確実に未来が幕を開きます。


(2)2010年
歯医者に二回、病院に一回
床屋に六回、区役所に二回
税務署は〇回、警察署も〇回
ハローワークは二回
銀行は月一、ファミレスも月一
デパートも月一、カルディは月二、
イオンは毎週、本屋も毎週
コンビニは毎日、トイレも毎日
通ったのでありました。

甘い言葉に釣られた
やる気のない国民から
選ばれただけのことなのに
さも革命でも成し遂げたかように
大騒ぎして、バカ騒ぎして
好き勝手して、あげくの果てに
この国を、崖っぷちまで持って行き
奈落の底に突き落とそうとしている。
どう思っているんだ、この国を。
どう見ているんだ、世の中を。
どう捉えているんだ、この時代を。
お前たちが簡単に転がせるような
そんなヤワな石ではないんだから、
大地に根を張った巌なんだから、
そんなひねくれた根性で頭を絞っても
お前たちには欠片の一つも転がせまい。
とっとと歴史の中から消え失せろ。

とにかく眠たいのです。
ずいぶんと眠たいのです。
ちょこっと目を閉じると
そこはもう天国なのです。
夢に戻れる天国なのです。
人間関係という名の
ややこしいしがらみもなく
生活という名の
とてつもない重圧もなく
今という名の
曖昧な環境もないのです。
とにかく眠たいのです。
ずいぶんと眠たいのです。

街がどこかに流れて行く
街がどこかに流れて行く
お前の夢の場所はここじゃない
お前の行き着く先はここじゃない
そうつぶやきながら
街がどこかに流れて行く

街がこんなにちんけだから
街がこんなにちんけだから
癒やしてくれる猫さえも
いなくなったじゃないか
おかげで人も減ったじゃないか
街がこんなにちんけだから

華やかな彩りのネオンは
見た目だけのイルミネーションに変わり
温かさのなくなった街を映し出す
夢も見られなくなった街を映し出す。
青と白だけの無機質な
寂しい街を映し出す

街はきっと凍えているんだ
街はきっと凍えているんだ
あの時の夢はいつか終わったんだ
だから今は現実の生活に思いを馳せるんだ
気がつかないうちに気温が少し下がったんだ
だから街が凍えているんだ

昔、柔道をやっていたことがあって
その練習中に絞め技で落ちたことがある。
仮死状態になったわけだ。
その時、ぼくが見た風景はピンク色で
柔らかい日差しの中にぼくはたたずみ
遠くで子供たちが遊ぶ声が聞こえた。
えらく懐かしい思いで
その時を過ごしていたのだが
突然、ぼくを呼ぶ声が聞こえた。
その声の方向に顔を向けたとたん
ぼくは現実に戻ったのだった。
その瞬間ぼくは思ったのだった。
「何でこんなところにいるんだろう」と。
今でも落ちた時のことを思い出すと
優しい気持ちになるのは、もしかしたら
原点に回帰したからなのかもしれない。

それとは別に思うことがある。実は
ぼくはあの時点で死んでいて
現実と思って生きてきた道は
ぼくという自我がイメージした
架空の履歴ではないのかと。

風呂場のシャワーのパッキンが
いかれているのか
タン、タン、タタンと水滴が
リズム正しく落ちている。
このまま数千年も放っておけば
タン、タン、タタンの下には
スッポリと確実に穴が空いて
自然が描く不自然な
芸術が出来上がることだろう。
そうなると大変だと思ったのか
嫁さんはタン、タン、タタンの
下に折り畳んだタオルを置いて
水滴に芸術をさせないようにしている。
とはいえそのタオルは、よく持って
一年くらいのものだろう。
その先の数千年からすれば
一年のうちの数分間くらいの感覚だ。
そのタオルが尽きた頃には確実に
タン、タン、タタンが芸術し始める。

ということで、ぼくはこの先の数千年
霊になってこの風呂を眺め、
その芸術の完成を見ようと・・・・
いや、ダメだ。ダメだ。ダメだ。
霊になってもきっと忙しいはずだから
そんな悠長なことをやっていられない。
やっぱり修理することにする。

国境らへんにぼくらは立って、ぼくらは立って
この歌を歌って歌って、歌っていくのだ
国境らへんにぼくらは立って、ぼくらは立って
この歌を歌って歌って、歌っていくのだ

ギターの弦をぼくらは張って、ぼくらは張って
ジャカジャカジャカジャカ、やっていくのだ
ギターの弦をぼくらは張って、ぼくらは張って
ジャカジャカジャカジャカ、やっていくのだ

政治なんてつまらんものだ、つまらんものだ
思想なんてどうでもいいのだ、どうでもいいのだ
今ここにいることが大切なのだ、大切なのだ
今これをやることが大事なのだ、大事なのだ

ダイナマイトが弾ける前に、弾ける前に
ぼくらは行って行って、行っていくのだ
ダイナマイトが弾ける前に、弾ける前に
ぼくらは行って行って、行っていくのだ

休みの日になると決まって思うことがある。
『ヒゲを剃らんといかんなぁ・・』
例えば二連休の時などは二日続けてそう思っている。
つまり二日間ヒゲを剃らないということだ。
ちょっとの手間を惜しまずにやっておけば、
いらんことに心悩ますこともないし
仕事の日の朝は剃るヒゲの量が少なくてすむし
シェーバーにヒゲが引っかかることもないので
時間の短縮にも繋がるし、そのおかげで
朝の貴重な時間を有効に使うことが出来る。
剃り残しがあっても気になる長さではない。
等々と、色々いいことづくしなのだ。
しかし、休みの日にはそれをしない。
なぜか心と体がその手間を拒むのだ。

二十年以上前のこと
神奈川県の逗子に行ったことがある。
横須賀の叔父が亡くなった時がその時で
荼毘に付すためにそこに行ったのだ。
逗子という町はぼくにとって初めての場所だった。
何年間か東京に住んでいたことがあるのだが
その頃にも行ったことはない。

さて、荼毘に付した後、宴会が行われたのだが
翌日仕事のぼくは途中でそこを抜け出し
羽田に向かうことになった。ところが
初めての場所なので地理がまったくわからない。
そこでそのへんにいる人に聞いてみると
「まっすぐ行くと広い通りに出る。その
通りに沿っていけば京急の駅がある」と言う。

教えられたとおりに歩いて行くと
広い通りに出た。その時だ。
突然家の近くを歩いてる気持ちになったのだ。
『なんだろうこの気持ちは?逗子は初めてだし。
もしかしたらこれがデジャヴというものか。
であれば叔父の計らいなのかも知れないな』
そんなことを思いながらぼくは駅に向かった。

しかしおかしい。
デジャヴだとしたら何か違う。
その気持ちというのは、一度見たことのある
というような気持ちではなく、どちらかというと
そこで現在生活しているような気持ちなのだ。
そこでもう一度振り返ってその風景を見てみた。
あっ・・。なるほどそうなっていたのか。

一瞬でその理由がわかった。
その通りには釣具の『ポイント』があり
同じ並びに『ロイヤルホスト』があり
コンビニがあり、スタンドがあり
同じような車が走り、同じように渋滞し
信号風景もあまり変わらないのだ。つまり
家の近くと同じような構造になっていたわけだ。

公園の鉄棒を見ていると
幼い頃を思い出す。
鉄棒がわりと得意な方で
なぜか人の出来ないことが
いとも簡単に出来たのだ。
その自慢も手伝って
クルクル回っていたものだ。
時には豆を破ったこともある
時には鼻血を出したこともある
それでも鉄棒自慢のぼくは
何度何度も回っていた。
おかげでぼくの手は、いつも
鉄分臭のする手垢で汚れ、それが
鉄分臭のするシャツの汚れに変わり
鉄分臭のする母親に叱られていたものだ。
それがぼくの幼い頃の思い出の構図で
公園の鉄棒を見ていると、ついつい
その構図を思い出してしまうのだ。

「やる気ありますか?!」
開口一番、T君はこう言った。
「えっ?」
「やる気ありますか、と聞いているんです」
「何のやる気?」
「もういいです」

何がもういいのかわからない。
それよりも、何で年下のT君から
頭ごなしに「やる気ありますか?」
なんて言われなければならないのか
そのことにぼくは腹が立った。
「何が『やる気ありますか?』だ。
ちゃんと筋道立ててしゃべらんと
何が何だかさっぱりわからんやろ」
ぼくの怒り口調に引いた彼は
「すいません」と言って、その話を始めた。
「いい話があったので、勧めようと思って・・」

そのいい話というのが儲け話で
その方法というのがマルチ商売だった。
何でも『あのMr.イノウエ』という人物までが
注目している新手の商売らしく
彼はそのMr.イノウエという名前が決め手になって
その商売を始めたということだった。

ある大手のマルチはかつてのダイエー総帥
中内功氏までが注目している商売だと言って
洗脳し勧誘していた。著名人の名前を出すのは
その手の商売をする人の常套手段らしい。
彼の言う『あのMr.イノウエ』という人物も
中内氏類の人物のようではある。だが
ぼくはその『あのMr.イノウエ』という名の
人物のことをまったく知らない。

ということで、ぼくはその
『あのMr.イノウエ』という人物のことを
彼に聞いてみた。すると彼は
「えっ、『あのMr.イノウエ』を知らないんですか?」
と急にバカにしたようなような口調になって
勝ち誇ったように『あのMr.イノウエ』を讃え始めた。

彼が帰った後、周りの人間にその話をすると
そこにいた人間すべてが
ぼくと同じ疑問を抱いたのだった。
「『あのMr.イノウエ』という人は何者なんですか?」
「知らんけど、有名な人らしい」
「その商売はどうでもいいけど
『あのMr.イノウエ』にはぜひ会ってみたいですよね」

あれから十年以上経つが、その後
そのマルチ商売が成功したという話は聞かない。
ということは、その商売に注目していた
『あのMr.イノウエ』氏も失敗したのだろうか。
それとも、その商売に注目はしたものの
結局参加はしなかったのだろうか。
T君のことはどうでもいいのだが
『あのMr.イノウエ』氏のことが心配になっている。

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