吹く風

2009年06月

飽くことのない人の夢が
真夏の日々の汗に消えていく
取り乱さずに言葉を吐けば
見えぬ疲れが息を詰まらす
幸せかい、こんな人混みが
楽しいかい、こんな人混みが

休む間もなく満員電車で
生暖かい風、身にくらって
夜はまだかと時を恨んで
帰るまではと体裁つける
幸せかい、こんな人混みが
楽しいかい、こんな人混みが

憂いに満ちた満員電車で
今日はどこへと曇り空を見る
幸せかい、こんな人混みが
楽しいかい、こんな人混みが

…究極の親子愛は、
死によって完結するものなのか…
ああ、何度考えればすむんだろう。
所詮ドラマじゃないか。
心が繋がったんだからいいじゃないか。
手をつないだんだからいいじゃないか。
心の中で生きてるんだからいいじゃないか。
ああいう形のハッピーエンドなんだからいいじゃないか。
もういいんだ、
白い春のことは忘れよう。

「いや、簡単なことですよ。
人に頼らないで、相手を待たないで、
まず自分からアタックしてみることです。
それで振られたっていいじゃないですか。
所詮彼とはそれだけの縁だったということですよ。
そういう場合、きっと次があるんですよ。
もしかしてあとが気まずいって思ってるんじゃないですか。
いやいや、そんな心配はない。
あなたが告白した時点で、
相手はちゃんとあなたの存在を認めているんですから、
決してないがしろになんてしないです。
時には力にだってなってくれますよ。
ぼくの経験上、それはわかります。
そう、だから簡単なことなんですよ。
人に頼らない、相手を待たない、
まず自分からアタック。
それが一番なんですよ」

こいつは何を聞いているんだ。
一歩を踏み出せないから悩んでいる、
という相談じゃないか。

甚兵衛羽織って寝転ぶと、
とろろんとろんと夜が更けて、
テレビの前で寝ています。
気がつきゃうちだけ照明が、
煌々ついておりまして、
テレビもそのままついていて、
おまけに音が大きくて、
近所迷惑になるじゃないかと、
思わず電源引っこ抜く。
その後は静かに床に就き、
何度も寝返りうってます。
とろろんとろんと月が差し、
何度も寝返りうってます。

昔の恋人にあったりすると、
うれしいんだけど複雑だ。
なぜか素直に喜べないのは、
古き恋への恥じらいか。
古き自分の後悔か。
充分すぎるくらい冷静に
振る舞おうとする自分の姿が
滑稽すぎてたまらない。
なぜに体裁つけているのか。
どんな自分で接したいのか。
無意識な自分がわからない。
「時間よ止まれ」と思いながらも
その時間を持て余したりもする。
昔の恋人にあったりすると、
うれしいんだけど複雑だ。

うどんを食べている時ふと
「うま足りない」という言葉が
頭の中をよぎった。
別にその店のうどんが
まずいという意味ではない。
あと一歩でうまくなるという意味で、
何かひと味足りないのだ。
ぼくはグルメとかいう
味に神経質な人間ではないから、
どのひと味なのかがわからない。
だから具体的に批評できない。
それが口惜しい、もどかしい
何かが足りないんだよ。
うま足りないんだよ。
大声でそれを叫びたい。

「夜寒朝寒というのは、
確か秋の季語だったよな」
うろ覚えの知識に惑わされて、
ついつい油断してしまった。
この間夜寒朝寒の被害に遭った。
風邪を引いてしまったのだ。
夜寒朝寒は秋の季語なんだから、
六月の朝晩の寒さなんて
気にしなくてもいいんだと、
薄着をしたのが間違いだった。
のどが痛い、咳が出る、
あげくに家族にうつしてしまった。
現実は季語では割り切れない。
しかも暑い寒いの狂った気象だ。
おかげで風邪は長引いている。

グリーンピースが大っ嫌いだ。
チキンライス、カレーライス、オムライス、
緑の豆が浮かんでいるだけで、
もう食べる気が失せてしまう。
ピースご飯なんかもってのほかで、
においだけでも吐き気がする。
何でそんなに嫌いなのかと
聞かれても説明しづらいが、
とにかく生理的に受け付けない。
そんなぼくを尻目にして、
母と嫁はピースご飯を食べている。
おにぎりにして食べている。
おいしそうに食べている。
まあ食べるのは勝手だが、
それなら臭いの届かない、
離れたところで食べてほしい。

雨の降る夜はたった一人で
蚊取り線香の光を見つめて
蛙といっしょに歌をうたうと
見知らぬ人が傘をさして通り過ぎる
 街は濡れ、人は濡れ
 辺りは変わり、色も濃く
遠くの船の音に魅かれて
異国の町に立っているような

いま、雲の隙間を星が
瞬きより速く過ぎていった
声を落としてギターはなく
耳を澄まして人はなく
 街は濡れ、人は濡れ
 辺りは変わり、色も濃く
寂しい雨の寂しい歌?
ううん楽しい、楽しい雨の歌


雨の降る夜は


中一の頃のぼくの称号は問題児だった。
そのきっかけとなったのはぼくが
他人のけんかに巻き込まれたことにあった。
担任はなぜかことのいきさつも調べずに、
勝手にぼくを首謀者と見なした。
あまりの馬鹿馬鹿しさにぼくは呆れて、
何も弁解しないでいると、
奴はさらに調子に乗って、
ぼくを問題児扱いするようになった。
ノートに落書きすると問題児。
他の先生にビンタされると問題児。
美術の作品を出し忘れると問題児。
体育の授業を見学すると問題児。
流行りの言葉を使うと問題児。
問題児、問題児、問題児…。
いったいどれだけ問題児なのか。
ぼくが「問題」を起こすたびに
奴はぼくの母親を呼び出して、
ご親切にもぼくの行く末を案じて、
嘆いてくれていたそうな。

三年後、
何の因果か奴の自慢の娘は、
問題児と同じ高校に通うことになる。
ああ、そうだったのか。
奴は問題児の行く末を案じながら、
実は我が娘の行く末を嘆いていたのか。

梅雨六月の思い出の
ひとつに夜下駄の音がある。
雨が上がった夜更けの街を
二つばかりの音影が
カラコロカラコロ過ぎて行く。
何をしゃべっているのだろう、
夜下駄の響く合間から、
忍び笑いが漏れてくる。
ぼくはたばこを吹かしながら、
窓から聞こえる夜下駄の音を
煙とともに追っていた。
煙とともに追っていた。

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