2003年3月27日の日記です。

 以前、駅前に汚い身なりの乞食が座っていた。ムシロを敷き、その上でずっと土下座をしていた。
 彼の前には、空き缶が置いてあり、そこには小銭が入っていた。昔のドラマやマンガなどで描かれていた、乞食スタイルそのものだった。

 人の話によると、その乞食はいつも朝7時にやって来て、夜7時に帰るらしい。12時間労働である。

 ある時友人から、こんな話を聞いた。
「あの乞食の後を付けていった人がいてねえ、その人から聞いたんだけど、あの人、けっこう金持ちらしいよ」
 何でもその乞食は、表通りでは腰を曲げ苦しそうにダラダラと歩いているが、裏通りに入ると背筋をピンと伸ばして歩くらしい。

 彼の行き先は、その裏通りにある駐車場だった。
 駐車場に着くと、彼は、そこに止めていた黒塗りのクラウンの前に立ち、その車の鍵を開けた。そして、車の中に置いてあった荷物取り出して、駐車場内にあるトイレの中に入っていった。

 しばらく待っていると、トイレから一人の紳士が出てきた。横顔を見ると、先ほどの乞食だった。
 彼は車に乗り込み、その車を運転して颯爽と駐車場を出ていったということだった。
 乞食やってクラウンが買えるのだ。こうなれば乞食も立派な職業である。

 本宮ひろしのマンガ『男一匹ガキ大将』の中に、主人公の戸川万吉が乞食をやるシーンがある。最初はふんぞり返って座っていたが、だんだん謙虚になっていく。そこで何かをつかんだ万吉は、大きな人間に成長していったのだった。

 乞食を3日やったらやめられないという。やはり乞食には、やったことがある人にしかわからない何かがあるのだろう。

 長い人生、一度でいいから、何もかも投げ出して乞食をやるのも一興である。だけど、ぼくには出来そうにない。